才太郎畑

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『認知バイアス事典』を読んで~ペルソナ5プレイ感想を踏まえて~

読んだ本:情報文化研究所(山崎紗紀子/宮代こずゑ/菊池由希子)『情報を正しく選択するための 認知バイアス事典』フォレスト出版株式会社、2021年

 初っ端から本題と関係なさそうな話をするが、最近私は「ペルソナ5ロイヤル(以下P5)」にハマっている。言わずと知れた、アトラス社制作の人気RPGゲームのナンバリング最新作、その完全版タイトルだ。だいぶ前に発売されたゲームなので(P5Rは2019年、無印版は2016年発売)今更という感がないでもないが、安くなっていたので年末年始の暇つぶしに何気なく始めたらゲームシステムといいストーリーといい面白くてのめり込んでしまい、全クリした今も強くてニューゲーム状態で2回目の人生を歩んでいる。現実世界は春になろうというところだが、ゲーム世界では秋真っ只中です。

 タイトルの「ペルソナ」が心理学用語を由来としていることからも分かる通り(下記記事参照)、P5は素人ながら本作のストーリーやキャラクターの言動に心理学・哲学の要素が多く含まれているように感じた。

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 P5は、ある日ペルソナ能力に目覚めた主人公たちが、パレスと呼ばれる異世界で怪盗となり、悪い大人・社会と戦い世直しをする、という義賊もの、ピカレスクロマン調の物語だ。このパレスというものは人の認知の強い歪みによってつくられるとされており、「認知訶学」という架空の学問(「認知科学」がモチーフなのは想像に難くない)が登場するなど、「認知」という概念が世界観・ストーリーの根幹にある。また、本作のマスコットキャラクターであり主人公の相棒・モルガナが、ラスボス戦後のムービーで「世界とは君たち自身が知覚できる範囲の世界のことなんだ……」的なことを言って消えていくのだが(※絶対こんなセリフではない。が、ニュアンスはだいたいこんな方向性だったはず……)、すごく哲学チックな表現だな、と思い印象に残っていた。しかし私はこの分野に関しててんで無知、改めて学べたらもっと深く作品を楽しめるのではないか?と考え、手にとったのが『認知バイアス事典』だった。

 

 本書が読者としてイメージしているのは入学したばかりの大学生だという。詳しくない分野について初めに本を読むなら、このような大学講義向けの、初学者をターゲットにしたものを選ぶのが良いと最近気づいた。「認知バイアス」についての様々なキーワードが数ページずつ解説されている構成で、とても読みやすい。そして差し込まれる図解やイラストのタッチがキャッチーでかわいい。学問のとっかかりとして申し分ない体裁だ。

 特に印象に残った項目は「フォルス・メモリ」という概念だった。その意味を本文より引用すると、

実際には経験していない事柄を経験したかのように思い出す現象のこと。虚偽記憶、あるいは過誤記憶とも呼ぶ。(P136)

とのことだ。あまりに無知すぎて、このようなことが実際に、しかもわりと普通に起こりうることを初めて知った。実は、自分では事実だと思って喋ったことが後になって嘘であることを思い出し、なぜさっきナチュラルに嘘ついてしまったんだ……?と困惑した経験が過去何度かあったので、これにちゃんと名前がついていてくれてホッとした。人間は物事に名前がついて、自分の手の中で捉えられるようになると安心する生き物なのだろうと思う。

 P5に、母親が自身の目の前で自殺したというトラウマから引きこもり状態になってしまった、佐倉双葉というキャラクターがいる。主人公たち怪盗団は彼女の認知世界・パレスに入り攻略を進めることでこの過去を知ることになるが、双葉は母親の死の原因を自分の育児によるノイローゼで精神を病んだためと思い込んでいた。その結果心の傷となり幻聴や幻覚といった症状に悩まされていたが、実は、これは周囲の心ない言葉から生じたフォルス・メモリによる誤解で、それに気づいた双葉は母親の死を克服することができ、最終的に主人公たちの味方となる。プレイ当初はそんなことある……?まあこんな状態になるくらいだしあるか……と違和感は覚えなかったが、実際知識を得てみるとこういうことだったんだ!と納得度が段違いすぎる。物語上の設定ひとつでも、完全なファンタジーより現実的に根拠のあるフィクションだと説得力が増すし、テンションあがるよね。とはいえ、この読み外れてたらめちゃくちゃ恥ずかしいので、フォルス・メモリってことで解釈することもできるよね、というところで手を打ってほしい。

 ちなみにゲーム攻略進めてたら、この認知についての解説を聞くイベントが発生してびっくりした。1周目真面目に話聞いてなくてすいません、丸喜先生……

 

 本の最後を締めくくる項目「知識の呪縛」では、あとがき代わりのメッセージが述べられている。曰く、認知バイアスのほとんどは無意識に作用するため知識がないと気づくことは難しい、この本を読んだことで知識を得たあなたは、次にバイアスに陥らないようにコントロールする技術を習得してほしい、と(P257)。確かに本書を読んで以降、今自分が感じている気持ちは認知バイアスによるものだな、と気づく瞬間が度々あった。例えば、仕事中に先輩とした会話のやりとりにめっちゃデジャヴ感じたけど、多分前にも似たようなこと喋ってるからだな、と気づいたとか。デジャヴはそんな大事なものではないが、このようにメタ認知ができることで、無駄に悩んでいたあれこれも減るのだと思う。確かこの本は続編が出ているので、今後そちらも読んでみたい。

 余談だが、P5はシリーズの中では多分こういう考察に向いてない方の作品だと思う。P5は体罰・セクハラ・虐待・ブラック企業……などなど社会問題を取り上げたストーリー構成の割合が多く、それがビターな世界観の魅力である一方、メインキャラクターたちがそんな社会の「被害者」という立場であることで個性づけられている部分があり、若干心理描写が薄いことは否めないからだ。こんなに語っておいて今更だが、双葉は作中そういう描写が一番多かった人物といっても過言ではないので……。反対に他のナンバリング作品はもっとキャラクター自身の心の葛藤が描かれていると聞くので、機会があったらプレイしてみたいと思う。それまでにもっと哲学・心理学に詳しくなりたい。