才太郎畑

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【感想】一ノ瀬俊也『昭和戦争史講義 ジブリ作品から歴史を学ぶ』

 一ノ瀬俊也『昭和戦争史講義 ジブリ作品から歴史を学ぶ』人文書院、2018

 大学で近現代の戦争史を専攻していたので、これを卒業後の今読んだという事実に悔しさと反省の念を禁じ得ない。この本は『飛行機の戦争』(講談社現代新書・2017)などの著書で知られる(というか、私がこの本を読んで知ったので……)戦争史界隈では著名な教授が、『風立ちぬ』や『火垂るの墓』といったジブリ作品の内容を追って論評しながらそこに描かれた戦前・戦中・戦後の歴史を学ぶ大学の講義を書籍化したもの。ジブリ作品についての考察というよりガッツリ歴史学的な内容だけど、アニメが導入になっている分すごく取っ付きやすいし、解説も分かりやすく噛み砕かれているし、大学生を受け手として想定しているので、卒論へ向けて議題をより深く理解するための教授おすすめの本も紹介されている、ザ・初学者向けの良書だった。私は遅くともゼミを戦争史に選択した時に読むべきだった。卒論の一つの章で堀越二郎取り上げたけど良い資料が見つけられず時間もなく、そこの章が断トツでうっすい内容になったんだが、おそらくこれを読んでいれば多少は改善したんじゃなかろうか……

 

読んでみて

 『風立ちぬ』を見た時のあのうっすらもやっ…………とした余韻の理由が何となく分かった気がする。あとシンプルに『風立ちぬ』のストーリーがゲーテファウスト』を翻案して取り込まれているのを知らなかった。また、専門家がジブリ作品を見て、一般人の自分があまり意識していなかったワンシーンから多くの情報を読み取って深い考察を行っている部分には、やっぱり知識は人生を豊かにするんだなという事実があった。ちょうど今は世間も戦争を考えようの時期(読了日は8/8だった)で、より身近に考えながら読むこともできた。

 そして何より、著者が読者(受講者)に伝えたい意見が明快に示されているところがとても良かった。この意見に触れるだけでも読む価値はあると思った。その中のいくつかを以下に引用すると、

人も国も”自立”して食べていくのが正しい、ぜひともそうすべきだという意見は今日の日本にもみられますが、考えものです。それはそれでいろんな無理を生みだし、かえってよくないからです。(p59)

都合の悪い物事や歴史を全部ユダヤ人や共産主義者などの悪者のせいにする陰謀論は、話としてはわかりやすいし、陰謀が完全に「なかった」と言い切るのは難しいです。しかしながら、本来複雑であるはずの歴史の見方が単純かつ歪んだものになるので、真に受けない方がよいと思います。(p88)

私は、これこそが戦争根絶が難しい理由の一つだと思っています。悪人にはいざとなれば排除や矯正などの強硬手段もとれるでしょうが、善人には無理だからです。(p158)

 このように、戦争史を考える上で見失わないようにしたい視点や事項の他にも、現在の世相や普遍的な問題点を示す考えが解説の中にちりばめられていて、読んでいてハッとさせられることが多々あった。

 「ジブリ作品」をテーマにしているためイロモノというか、ジブリの解説本なのかな?というイメージをもちそうなタイトルではあるが、近現代史(特に昭和前期の戦前戦中期)初学者にとっては十分水先案内人のような役割を果たしてくれる本なので、良質な参考文献一覧があるという点においても一冊手元においておいてもいいな、と感じた(今回図書館で借りました)。ちゃんと勉強しなきゃなと思います。